日本財団 図書館


 

二、類型句
※「浅黄」
1 とのうらへ行っても持てぬ浅黄裏 六
2 腹悪しく紅閨を出る浅黄裏 十一
1、「うら」は裏で、吉原用語、二回目の遊興をいう。浅黄裏の「裏」に掛けている。
2、紅閨、美人の寝室。腹悪しく、だから持てなかったのである。
「浅黄」または「浅黄裏」というのは、江戸勤番の野暮な田舎侍のことである。彼等の衣服の裏に浅黄(うすあお色)木綿が使用されていたことによっている。単身赴任が多かったから、本当は吉原などの上客であったものと思われるのだが、このように蔑称されている。江戸人はある種の優越感を持っており、田舎者を軽蔑する風があった。
古川柳では、あるテーマが好評を得ると同類の句が多数続出するという、類型化が見られた。十七字という短詩型では、これはある程度避けられぬことであったとも思われる。類型化は作句数の拡大に役立った半面、一方で句のマンネリ化を招いた弊害も見逃せない。また類型化にはそれぞれに約束ごとがあり、その内容を知らないと句がよく分からないという欠点も生じた。「浅黄」など、その例である。ここで、類型句の約束ごとはあくまでも古川柳における「穿ち」「趣向」であり、史実とは次元の違う世界の約束であったとことをお断りしておく。
続いて「初鰹」「信濃」「下女」などについて述べてみよう。
※「初鰹」
1 初鰹薬のように盛りさばき 一
2 葬礼を見て初鰹値が出来る 八
江戸で大変な人気があり、とんでもない高値で取り引きされたという「初鰹」の句である。現在も鰹は酒飲みなどに喜ばれるが、江戸のように一尾、一両(数万円)などという桁外れの値はつかない。流通事情の進歩のお陰である。当時は冷却機器なしに、人手だけで運んだのであるから無理はなかったのかもしれない。1、高い魚だから薬のように扱う。2、買おうか買うまいか考えていたのだが、たまたま通った葬式を見て思想を変え、思い切って買ったというのである。初鰹に常識外れの値段が付いたということは、ある程度事実だったと思われるが、「初鰹」も類型の一例といえよう。
初鰹下戸は煮て喰う味気なし 三五
高価な初鰹も下戸に会ってはたまらない。刺身が身上なのである。
※「信濃」
1 喰いぬいて来ようと信濃国をたち 五
2 喰うが大きいと信濃を百値切り 十六
1、2ともに、信濃者大食の句である。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION